「世界の四つの元素」
菅波美穂
このプロジェクトは、アリストテレスの「世界四大元素論」からそのテーマをとりました。
アリストテレスは、世界は四つの元素からなっていると論じています。すなわち、空気、火、土、水、です。四つのステンドグラスのパネルは、それぞれの元素をあらわしています。
アリストテレスは、しかしながら、世界がこの四つの元素に分けられる、といったわけではありません。どちらかというと、これらの四つの元素は複雑に絡み合い、分けることができないものとしてとらえていました。
アリストテレスは、これらの四つの元素には四つの性質があり、それぞれがその中の二つを持っている、と考えました。つまり、水であれば、「湿っている」ことと「冷たい」こと。そして、となりの元素、空気は「冷たい」ことと「乾いている」こと。火は「乾いている」ことと「熱い」こと。土は「熱い」ことと「湿っている」こと。このように、一つの元素はその性質のうちの一つを共有する別の元素へと流れ込み、更なる変化を続けていき、とまることはないのです。
このような考え方は、私に世界が力強くうねりながら動き続けている、力強いイメージを啓示しました。すべてのものは、独立した存在ではなく、影響をうけあい、関わり合いを持ちながら、変わりづつけている。私はこのダイナミズムを私の作品の中で表現したい、と思いました。
ですから、それぞれのステンドグラスのパネルは、確かにそれぞれの元素に対応していますが、パターンは止まることなく、次のパネルへと流れ込んでゆきます。このパネルは、独立した四つのパネルではなく、大きな一つのパネルの四つの部分にすぎないのです。この流れるパターンは、また、時間を表しています。ですから、四つのパネルは一日の四つの時間、また、四つのシーズンをも表現しています。このような流れを持った総合体をあらわすものとして、中庭のインストレーションは制作されました。
しかしながら、このプロジェクトの制作を始めたとき、「なぜ、四つなのか」という疑問が浮かびました。これに対する明確な答えはよく分かりません。しかし、この疑問に対して、ピタゴラスの数の理論は魅力的な仮説を私に与えてくれます。ピタゴラスは4とはすべてのものがめぐりゆく様子を示している数だと論じています。そうだとすれば、アリストテレスがその元素の数を互いに分かち難く結ばれている4としたことも、納得できるではありませんか。
4以外の数も、ピタゴラスによってさまざまな意味付けがなされています。たとえば、3は生命そのものを示し、2が女性で、1が男性です。そして、6は完全数です。ピタゴラスに始まるのこのような数に対する議論は非常に魅力的で、しかも、数の美しさをあまるところなく伝えています。ですから、私は、このプロジェクトの中に、ピタゴラスの数の理論も少し、取り入れてみることにしました。
私の力量では、これらの化学論や数の理論の美しさをあまるところなくとらえることは不可能です。しかし、この作品を見ることによって、サイエンスが、難しく退屈なものではなく、実は世界の根元に潜む美しさを探ろうとしているのだ、と誰かが考えてくれるとしたら、こんなに幸せなことはありません。